ダイバーシティは人材戦略から提供価値へ
はじめに
この記事はアクセシビリティ Advent Calendar 2020の最終日の記事です...が、遅刻です。すみません。
今年で4回目の「アクセシビリティ Advent Calendar 2020」ですが、皆様のご尽力のおかげをもちまして、今年も素晴らしい記事が揃いました。空きの日が出ていますが、これからも肩の力を抜いて、このカレンダーを必要とされている方々にお届けできたらよいのかと思っております。今後ともカレンダーの提供を続けていこうと考えておりますので、何卒よろしくお願いいたします。
今回は、「ダイバーシティ」という言葉が現在持つ意味と、システム開発ベンダにとっての発展的な考え方について、ご紹介していきます。
ダイバーシティの現在位置
今日「ダイバーシティ」という言葉は、企業の人材戦略の文脈で語られることが多いと感じています。例えば、経済産業省の政策であるダイバーシティ経営の推進において、「ダイバーシティ2.0」は以下のように定義されています。
多様な属性の違いを活かし、個々の人材の能力を最大限引き出すことにより、付加価値を生み出し続ける企業を目指して、全社的かつ継続的に進めていく経営上の取組
やはり「人材の能力」の単語が見えます。また、同じ経済産業省の「ダイバーシティ経営」という用語の定義は、同省の資料によると以下の通りでした。
多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営
6月の「Developers.IO 2020 CONNECT」の私のセッションでは、ダイバーシティ経営にて採用した人材が社内システムを利用する場合に、アクセシビリティが重要だという見解を動画にしております。
「多様な人材を活かして」いくことは最初のステップとしては必要なことだと思いますが、ダイバーシティのビジョンとしては、後半の「付加価値を生み出し」、「価値創造につなげ」ていく部分について、企業毎に何ができるのかを検討する方も重要だと考えます。
先の経済産業省による定義を細分化して考えてみると、ダイバーシティのステップは以下のようになりそうです。
- 多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供する
- イノベーションを生み出す
- 価値創造につなげる
つまりダイバーシティは、用語の定義を見る限り、人材採用では終わらないということになると考えます。
ダイバーシティ文脈での提供価値を考える
企業におけるダイバーシティを推進し、多様な人材が採用され、その能力が最大限発揮できる機会を提供しました。では、そのようにして生まれた企業環境を、どのように価値創造に結び付けることができるでしょうか。
システム開発企業として考えてみると、それは、開発するアプリケーションやシステムを利用するユーザーのダイバーシティについて考えることではないかと考えます。
具体的には、ユーザーの性別、人種、国籍、宗教、年齢、学歴、職歴、障害の有無が多様であることに配慮することで...
- アプリケーションやシステム全体のUIは、極力シンプルに保ち、必要な機能を容易に利用できるように配慮する
- ユーザーが視覚、聴覚など、情報を受け取る五感に障害がある場合を想定し、その代替手段を提供する
- ユーザーが、様々な利用環境(端末、OS、支援技術等)で利用していることに配慮し、極力多くの環境で支障なくサービスが利用できるようにする
- ユーザーに性別、人種、国籍、宗教について入力させる際は、その必要性を吟味する。また選択肢について配慮する
- アプリケーションやヘルプの中で用いる文章が、難解すぎて相手に伝わらない可能性や、ユーザー側で機械翻訳される可能性を考慮して、極力シンプルな表現とする
このような配慮を行ったアプリケーションやシステムを開発することにつながります。
システム開発において、例え受託開発であっても、こうした配慮を行ったシステムを提案できることこそが、システム開発企業がダイバーシティを推進したことにより提供できる価値ではないでしょうか。
例えば、2004年9月のHarvard Business Reviewには、Diversity as Strategyという記事があります。
ここでは、IBMにおける1993年からの取り組みが紹介されており、人材の採用とともに、同社が提供する製品について多くの人が利用できるように改良した取り組みが紹介されています。
来る2021年も、このような価値を提供できるように推進していければと考えております。
それでは、よいお年をお迎えください!
Photo credit: Wonder woman0731 on Visualhunt.com / CC BY